○唐辛子(とうがらし)
ナス科の一年草であるトウガラシの果実を乾燥させた製品。トウガラシは比較的どんな土壌にも適応し栽培が簡単なため、世界中で栽培され香辛料として多くの人に愛用されている。配合比率で利用目的も異なる。
日本では東北地方、北陸地方、東海地方などの各地ではナンバンといい、岐阜県、島根県、京都府、九州地方ではコショウ、また福島県会津地方ではカラシなど呼び名が異なる。浅草寺や善光寺、清水寺など、寺院の門前には唐辛子屋があることが多い。これは昔、お参りに行くのにお金をかけてしまった人でも買えるほど、唐辛子が安価だったため、という言い伝えがある。
長野県の代表的な観光地である善光寺は、「牛に引かれて善光寺参り」という言葉もあるように、週末ともなると全国から参拝者が訪れる。なかでも門前にある八幡礒五郎は七味唐辛子が有名で、参拝者たちにも人気の店である。八幡礒五郎の歴史は古く、長野市の郊外にある鬼無里村の商人がアサと和紙を江戸に運び、かさばらない七味唐辛子を持ち帰り、初代勘右衛門がその七味唐辛子を善光寺の境内で売り始めたのがはじまりといわれている。
そののち、1707年(宝永4)に火災で焼失した善光寺の再建が行われ、冬の寒い中作業をする大工や作業員のべ20万人に七味唐辛子を入れた味噌汁を振舞ったところ、作業がはかどり七味唐辛子が耐寒食料としてよく売れるようになったという逸話が残っている。
江戸の七味唐辛子は乾燥陳皮(ミカンの皮)、胡麻、山椒、麻の実、あぶり唐辛子、芥子の実、生唐辛子の7種類で作られていたが、八幡礒五郎は生唐辛子と芥子の実は使わず、生姜と青紫蘇を使い独特の味を作り出した。いまでは、信州蕎麦などの薬味に欠かせない香辛料となっている。
また、唐辛子は、ペルーやメキシコの複数の遺跡から出土しており、紀元前から栽培されていたのではないかとみられている。そののち、コロンブスによってヨーロッパに持ち帰られ、17世紀にポルトガル人によってアジア、中国に伝えられたという。日本には同じ頃ポルトガル人によってタバコとともに伝えられたという説と、豊臣秀吉が朝鮮半島に出兵したときに持ち帰ったという説などがある。
【生 態】
トウガラシはアメリカの熱帯地域が原産地といわれている。辛味種と甘味種に大別され、辛味種を欧米ではチリペッパーといい、日本では甘味種の一種をピーマンと呼んでいる。春先に種をまくか苗を植えて、晩秋に収穫する。
●鷹の爪
日本の乾物店にある辛味唐辛子の代表。形状が鷹の爪に見えることから名づけられた。果実が3~4cmのものが多い。乾燥させて保存し、漬物や七味唐辛子などに幅広く利用されている。主な産地は栃木県である。
●八つ房唐辛子
ひとつの房に10個もの実がまとまって、上を向いている。鷹の爪より太く長いが辛味はやや劣る。枝のまま乾燥した観賞用としても楽しめる。
●島唐辛子(キダチ唐辛子)
沖縄補地方で栽培されている。泡盛などにつけて調味料として販売されている。
●伏見唐辛子
京都の伏見地区の在来種で果肉は10~12cmくらい。細長いかたちをしている。丸ごと焼いたり、てんぷら、煮物などに利用される。
●万願寺唐辛子
伏見唐辛子と大型ピーマンのカルフォルニア・ワンダーとの交配で、果実の大きさは15cm以上にもなる肉厚で美味しい甘味種。京都の舞鶴万願寺地区固有品種である。
●日光唐辛子
果実は10~15cmと細長い。輪切りにして生食のほか、中華料理や加工用など、さまざまな場面で利用される便利な中辛唐辛子。
【加工品】
●七味唐辛子
香辛料として各種珍味、薬味を配合したもので配合は各業者によって違いはあるが唐辛子粉、黒胡麻、山椒、芥子の実、麻の実、陳皮、青海苔など7種類を混合したものである。浅草の「やげん堀」、長野市の「八幡屋礒五郎」、京都府清水の「七味家本舗」などが有名。
●一味唐辛子
七味唐辛子より辛い。さまざまな種類の唐辛子を配合した薬味で、用途は七味唐辛子にているが、キムチ漬けなどにも利用される。
【栄養と機能性成分】
辛味成分であるカプサイシンがエネルギー代謝を活発にして、食欲増進・発汗作用をもたらすといわれている。発汗によって体温が下がるため、特に暖かい地方で好まれている。炭水化物の消化を助ける働きもあるという。
【保存と利用方法】
長時間保存すると香気が抜け、害虫が発生するので、湿気を避けて瓶などに入れて保存する。和食のきんぴら、漬物、野菜炒めのほか、中華料理、韓国料理と利用範囲は広い。小さく切るほど辛味が増す。ぬるま湯に浸して戻すと刻みやすい。種の周りの内壁部分に強い辛味があるため、辛味を抑えたいときは種を抜いてから調理するとよい。
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