2015年8月27日木曜日

干し芋

○干し芋(ほしいも)

 ヒルガオ科の多年草であるサツマイモを蒸して切り、乾燥した製品。干し芋の始まりは、1809年(文化6)頃に大藤村(静岡県盤田市)の大庭林蔵と稲垣甚八がサツマイモを蒸して厚切りにして乾燥させる製法を発明してからだといわれている。

 そののち、明治41年に茨城県那珂湊(ひたちなか市)での生産が始まった。茨城県に干し芋製造を導入したのは、せんべい屋の湯浅藤吉だといわれている。

 秋の味覚の代表であるサツマイモは糖質が多いが、体内に入ると糖質分解酵素が働く。皮の中は黄色をしており、カロチンとビタミンが多く熱に対しても強い。サツマイモを食べると胸焼けをおこしやすい人は、川ごと食べると体内での発酵が抑えられて胸焼けが起こりにくいという。茨城県ではサツマイモが学校給食にも使われている。

【名 称】

 乾燥いも、いも切り干しともいう。茨城県と静岡県がおもな産地だが、ほかの地域でも生産されており、呼び名が異なる。愛媛県宇和島では「東山」、長崎県では「かんころ」、熊本県や鹿児島県では芋をスライスする機械をコッパケズリ、コッパキリなどと呼ぶことから「コッパ」と呼ばれているが、いずれも干し芋である。

【生 態】

 サツマイモは繁殖力が強く、栽培方法も比較的簡単で収穫量の多い澱粉食品であったことから、各地で作られるようになった。春先親芋から芽が出て10cmほどになったら茎径を植える。夏が過ぎ秋になると収穫となる。

 茨城県ひたちなか市の那珂湊や阿字ヶ浦は土壌がサツマイモ栽培に適しており、冬に強い海風が吹く乾燥した気候も干し芋の生産に向いている。また、北海道や東北地方に出荷するのに地の利があることなどもあり、現在は有名な生産地となっている。

 干し芋の原料となっているサツマイモの品種は玉豊、いずみ種、玉乙女、紅まさりなどである。主力の玉豊は、他の品種と比べて大型で外皮、肉色とも白く、食感がネットリとしている。生では白いが、干すと飴色になる。

【製造方法】

 秋に収穫された原料芋は、土がついたまま寝かし保管する。干す作業に入るのは寒風の吹く11月後半から3月にかけてである。

①蒸す直前に芋をよく荒い、大きさ別に選別して、せいろに並べて蒸す。
②蒸した芋はひとつずつていねいに皮をむく。
③蒸して皮をむいた芋をつき台でスライスする。つき台にはピアノ線、ステンレスの針金を張り、平干し芋は9~12mm幅に、角きり芋は2cm角にスライスする。
④スライスした芋はすだれに並べ、天日で約1週間ほど乾燥する。丸干しの場合は20日ほどかかる。

【栄養と機能性成分】

 コレステロールを含まず、食物繊維が多い。ビタミンB1、ビタミンC、カリウムなどを豊富に含んでいる。

【保存と利用方法】

 乾燥しすぎるとかたくなり、乾燥が不十分だとカビが発生するので保存するときには湿度管理が重要である。強い直射日光を避け、水分が分離しないように低温保存するのが好ましい。冷凍すれば長期保存が可能である。

 かたくなった品は焼くとおいしく食べれるが、熱が冷めると再びかたくなる。最近はカビを防ぐために窒素ガスや脱酸素剤を封入した包装品がある。

2015年8月25日火曜日

干し杏

○干し杏(ほしあんず)

 バラ科の落葉中高木であるアンズの実から種を取り除き、乾燥した製品。乾燥果実として販売されている。

 アンズの原産地は中国北部、中央アジア、ヒマラヤ西北部である。中国では2000年前以上から種の中にある「杏仁」を収穫し、漢方薬として利用してきた。杏はそののち、中国からヨーロッパ、中東、アフリカに伝わり、18世紀頃にアメリカに渡ったとされている。日本に伝わった時期はわからないが、平安時代の書物に「カラモモ」という和名が記載されている。

 本格的に栽培されるようになったのは、ヨーロッパ品種が導入された大正時代からだと思われる。現在、日本で市販されている干し杏は輸入物が大半をしめ、一番多いのは中国産で、日本の品種よりサイズが大きい。

【生 態】

 日本で栽培される杏は和アンズ、日本アンズなどで、粒は小さく、色は褐色で時間が経つと黒くなってくる。味は酸味が強い。日本全国で栽培されるが、特に甲信越地方で多く栽培されている。長野県で春早くに花が咲き、6月下旬から7月にかけて実がなる。得に長野県千曲市郊外の森地区、長野市安茂里、倉科地区で栽培が盛んである。

【主な種類】

 日本で栽培されているアンズには、平和、昭和、信州大実などの品種があるが、これらはおもに生食用である。干し杏に向く品種は次のものである。

●山形三号

 山形県の原産品種で、昭和初期から長野県で栽培されてきた。果実は円形で黄色実がかった橙色をしており、酸味が強いので生食には向かないが、干しアンズやジャムの加工に利用される。

●新潟大実

 新潟県の原産品種で、酸味が強く干し杏やジャム、シロップ漬けの加工用として利用されている。円形淡橙色で果肉は40~60g前後である。

【栄養と機能性成分】

 βカロチン、カリウムなどを多く含み、高血圧、動脈硬化予防に効果があるといわれる。

【保存と利用方法】

 密閉容器かビニール袋、瓶などで保存し、ドライフルーツとして利用する。

2015年8月24日月曜日

朴の葉

○朴の葉(ほおのは)

【名 称】

 モクレン科の落葉高木であるホオの木の葉を乾燥させた製品。「ほお」は「包」の意味で、古くは大きな朴の葉に食べ物を盛ったことが由来とされている。飛騨高山(岐阜県)や富山県、新潟県、群馬県などでは、朴葉味噌などの郷土料理によく利用されている。

【生 態】

 ホオの木は、春先に白い花を咲ける。春から夏にかけて収穫し、乾燥保存しておく。

【保存と利用方法】

 湿気を嫌うので缶などに入れて保存する。利用する前には、乾燥した朴の葉を水に10分ほど浸けて戻しておく。七輪に金網を敷き、戻した朴の葉を味噌と山菜や肉を焼くと香ばしい香りと味が楽しめる。

2015年8月21日金曜日

○麩(ふ)

 小麦粉に含まれているグルテンという植物性タンパク質を加工した製品。麩は、雪に閉ざされる東北地方などで冬の貴重な蛋白源として重宝されてきた。日本各地に、それぞれの生活からうまれたさまざまな色、形の麩があるが、大別すると現在製造されている麩は、焼き麩と生麩に分けられる。

 麩の伝来は不明だが、8~9世紀の中国の文献に「麺筋」と記述されているものが起源ではないかといわれている。当時は仏教の厳しい戒律から、禅僧たちは殺生、肉食を絶っていた。そのために肉に代わるタンパク源をダイズやコムギに求めて、麩をつくり珍重していたという。

 南北朝の時代、麩は禅寺の喫茶を楽しむときのお茶請けとして扱われており、一休和尚が麩の普及に尽くしたとも伝えられている。江戸時代初期には、隠元禅師が普茶料理を広め、さらに麩の製造業者もうまれて、庶民も麩を食すようになった。

 さらに1859年(安政6)の開港とともに精白小麦粉が日本に輸入され、生地が滑らかになり、初めて鉄板の上で焼く焼き麩が一般市民の食生活に受け入れられるようになった。

【製造方法】

①小麦粉に水または食塩水を加えて長時間練りながら上水を取り替え、澱粉質を洗い流し、ネバネバした弾力のあるグルテンを取り出す。
②グルテンに小麦粉や米粉を混ぜる。製品によって粉の種類や配合が異なる。
③よく練って熟成、細工、成型する。
④焼成する
⑤選別、検査、切断する。

【主な種類】

●車麩

 麩の生地を直火で焼成した製品。麩の生地を鉄棒にまきつけて焼く。新潟県のほか北陸、東北地方で生産されている。

●庄内麩

 麩の生地をバーナーで焼いて板状にした製品。岩手県、山形県、秋田県など日本海側で生産されている。

●南部板麩

 青森県、岩手県、宮城県の太平洋側で生産されている板状の麩。

●饅頭麩

 麩の生地をお饅頭のようなかたちに丸めて成型した製品。青森県、山形県、新潟県など日本海側で生産されている。

●案平麩

 麩の生地を丸餅のように大きくふっくらとしたかたちに成型して焼いた製品。山口県では、仏事の供え物として利用されている。

●手毬麩

 五色に紅染めした生麩を丸めて手毬のかたちにした製品。石川県、岐阜県、京都府で生産されている。

●餅麩

 グルテンに餅粉を加えてつくった製品。おもに京都府、滋賀県、大阪府で生産されている。

●松茸麩、丁子麩、花麩

 麩の生地を成型型に入れて焼いた製品。滋賀県、京都府などの西日本で生産されている。

●圧縮麩

 麩の生地を蒸して圧縮した製品。沖縄県や全国でチャンプルを作るときに利用されている。

●すだれ麩

 グルテンを蒸した状態の生麩をすだれに延ばして包んで、加熱してから乾燥した製品。石川県で生産されている。

 以上の麩はすべて材料をオーブンで焼成(蒸し焼き)するタイプの麩である。このほか小町麩、観世麩、卵麩、白玉麩などがおもに関東地方、東北地方、北海道で生産されている。また、京都府などでは生麩が精進料理に多く利用され、手まり、もみじ、桜花、よもぎなどに成形し、色付けしたものが各地で作られている。

【栄養と機能性成分】

 麩は植物性タンパク質とミネラルが豊富で、パンや乾麺などの2~3倍含まれており、脂質、塩分は少ない。麩はリジンの多いダイズ製品と組み合わせるとアミノ酸バランスがよくなるうえ、麩には少ないカルシウムも補える。

【保存は利用方法】

 湿気を嫌うので密閉容器などに入れて保存する。仙台麩のように油で揚げたものは酸化しやすいので早めに使うこと。麩は水に浸ければすぐに戻すことができる。お吸い物などに利用する場合は、戻さずに直接入れて使うことができるため利用範囲は広い。

 日本料理のほかにも中華料理や沖縄料理の炒め物の材料として、また黒砂糖を表面につけた麩坊や麩かりんとうなどのお菓子にも利用されている。

2015年8月20日木曜日

鶏児豆

○鶏児豆(ひよこまめ)

 マメ酢の一年草であるヒヨコマメの種子を乾燥させた製品。おもにインドやパキスタンなどで栽培されている。近年は、わずかではあるがカナダや日本でも栽培されている。

 スープやカレーに入れたり、煮豆、甘納豆、スナック菓子などに利用されている。ガルバンゾー(スペイン語)の名で呼ばれることも多い。

2015年8月18日火曜日

○稗(ひえ)

 イネ科の一年草であるヒエの種子を乾燥させた製品。日本では古くからキビ、アワなどと同様に重要な主食作物として作られてきた。米より短期間で収穫できるとともに、荒地でも育つことから、五穀豊穣作物として重要な役割を果たしてきた。宮中の新嘗祭にも献上される。また、アイヌでも神聖な穀物とされた。アイヌ語ではピパヤと呼ぶ。

【生 態】

 特に寒冷な土地や痩せた土地でもよく実り、ムギやダイズと輪作されてきた。茎は飼料として利用される。おかゆ、ねりもちとして主食として食べられ、ほかの雑穀と混ぜた五穀米などの需要がある。

【栄養と機能性成分】

 タンパク質は米やムギより良質でカルシウム、ビタミンB群を多く含んでいる。

【保存方法】

 開封した稗は、密閉容器に入れ冷暗保存する。

2015年8月15日土曜日

ビーフン

○ビーフン(米粉)

【名 称】

 糯米を原料とした麺状の製品。中国や台湾でおもに生産されている。台湾や中国福建省南部ではビーフン、北京語ではミーフエン、ベトナム語ではブン、タイ語ではセン・ミーなどと呼ぶ。東南アジアでは盛んに食されている。

 中国産のビーフンはもろく、折れやすいので、日本では原料の米の品種を変え、澱粉を配合して麺を強くし、食味を強くしたビーフンが作られるようになった。日本のビーフン市場の多くは神戸のケンミン食品株式会社が占めている。

【製造方法】

 台湾では新竹市がビーフンの生産地として有名である。新竹はビーフンを乾燥させるのに最適な、冷たく乾燥した季節風が吹くことから生産が盛んになり、アメリカや日本にビーフンを輸出している。中国の桂林が原産の「桂林米粉」は切り口が丸く、太い。平たいものは切粉チェーフンという。基本的な製造方法は次の通り。

①糯米を水につけてやわらかくしてから、粉砕し脱水する。
②蒸して細い穴から圧力をかけて押し出し麺状にする。
③押し出した麺をもう一度蒸してから乾燥させる。

【利用方法】

 肉などさまざまな具と混ぜて食べる。豚肉のスープを注ぎ入れた「湯粉」、炒めた「炒粉」のほか、シンガポール、ミャンマーなど地域によっていろいろな食べ方がある。日本では台湾や中国福建省と同様に野菜や肉類など具材と一緒に炒めた焼きビーブンが一般的である。

2015年8月12日水曜日

パン粉

○パン粉(ぱんこ)

 パンを細かく砕いて乾燥させた製品。生パン粉、ソフトパン粉、乾燥パン粉などの種類があるが、どれも水分量を調節したもので、乾物屋が扱っている。揚げ物の衣やハンバーグに練りこんで利用されている。

 パン粉を使った揚げ物は、オーストラリア料理のウインナシュニッツェルが始まりといわれており、日本では明治時代に「洋食」として、西洋文化とともに独自の発展をとげた。欧州ではかつて油が貴重品であったため、油で揚げる料理は少ない。ウインナシュニッツェルは牛肉を薄く延ばして砕いたパンにまぶし、油をひいた鍋で焼く料理である。これがビーフカツとなり、トンカツに発展したといわれている。

 明治時代、肉や魚にパン粉をつけて、てんぷらのように揚げたものが洋食店で出始めた。洋食店で揚げ物がよく作られるようになると、1907年(明治40)に丸山寅吉がパン粉専業の製造販売業者となったのを皮切りに、製造業者が増えていった。

 戦後は、食生活の洋風化にともない口当たりの軽いパン粉が作られるようになり、トンカツ、エビフライ、カキフライなどの衣として中身の素材を引き出す日本独特の洋食として代表的なものになった。そののち冷凍食品、調理加工食品、外食産業など多くの材料に使われるようになった。またハンバーグ、ミートボール、コロッケなどの練りこみ用に利用されている。

【製造方法】

 ①まずパンを焼く。小麦粉とイースト菌などの副材料を混合し、パン生地を作る。②生地を発酵させてから丸めて型に入れて焼く。焙焼式の場合、オーブンを使って火で焼くため、ふっくらとした焼き色が付く。電極式の場合、電気で焼くため、焼き色がなく蒸しパンのような仕上がりになる。③焼きあがったら冷蔵庫で冷やし、水分を均一化させる。④回転する粉砕機でパンを細かくする。

【主な種類】

●生パン粉

 パンを規定粒度に粉砕し、水分を30~35%含んでいる製品。食感のよさが好まれている。

●乾燥パン粉

 水分が11~13%のため、保存性、作業性が高い。

●カラーパン粉

 生地を作るときに着色料を添加して色を付けた製品。揚げ色がよくなり、長時間おいても揚げ色が変わらず退色しにくい。

●ミックスパン粉

 焼き目をつけずに仕上げた白パン粉とカラーパン粉を任意の割合でミックスした製品。

●プレッダーパン粉

 かための生地をロールで帯状に延ばして、オーブンと高周波で連続して過熱し焼成した、アメリカンタイプのクラッカーパン粉。

【保存と利用方法】

 乾燥パン粉は吸湿しやすいので、高温多湿の場所を避け乾燥した風通しのよいところで保存する。開封後は冷蔵庫で保存し、虫が付きやすい食品と同じ所におかない。パン粉は、家庭でも簡単に作ることができる。食パンの耳の部分を集めてフードプロセッサーやチーズおろし器などを使った粉にすればでき上がる。

2015年8月11日火曜日

春雨

○春雨(はるさめ)

【名 称】

 馬鈴薯澱粉や、マメ科の一年草であるリョクトウを加工し、加熱して麺状にしたものを凍結し、乾燥させた製品。白く透明な姿が春に降る細長い雨を連想させるため「春雨」と名付けられたといわれる。

 春雨は日本名で、中国では「粉状・粉絲」、韓国では「タンミョン」と呼ばれる。昭和初期には、「豆麺」という名で輸入されていた。そののち、サツマイモ、ジャガイモの澱粉を原料にして、奈良・三輪地区の素麺業者が、手延素麺の閑職期の副業として生産するようになった。

【生 態】

 リョクトウはインドで栽培されたのが始まりとされている。世界各地で栽培されており、日本では中国すら伝わって栽培が始まったが、現在ではほとんど栽培されていない。

【製造方法】

 薩摩芋澱粉、じゃがいも澱粉、コーンスターチなどを配合した製造する。

●凍結春雨

 日本で製造される春雨のほとんどは凍結春雨である。①原料を配合して熱を加え、澱粉をアルファー化する。②小さい穴から熱湯のなかにたらしこんで茹でる。③完全にアルファー化したら水で冷やし、水の中を泳がせながら棒にかけて引き上げる。④冷凍庫で保存する。⑤凍結した春雨を天日乾燥(室内乾燥)する。

●非凍結春雨

 中国で製造される春雨のほとんどは、リョクトウの澱粉を原料とした非凍結春雨である。細い形状は凍結春雨と同様だが、純白で透明、光沢があり、一定の太さで細いウェーブがある。代表的なブランドに「龍口春雨」がある。

 日本で市販されている「マロニー」はこれの一種である。①混合した澱粉乳をステンレスのベルトの上に流す。②薄い膜状にして熱を加えアルファー化する。③巻き取って数時間熟成させてから製麺機で麺状に裁断する。④乾燥させる。

 さらに透明感を出すときには、ソラマメの澱粉を20%くらい混入させることもある(スープ春雨用など)。韓国冷麺は馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉に蕎麦粉を入れた非凍結麺で、春雨ではない。

【保存と利用方法】

 春雨は濡らさない限り、カビ、害虫の発生はない。寒い季節には、かしわの水炊き、サブシャブなどの鍋料理に、そのほか、酢の物、サラダ、マーボー豆腐中華炒めに利用される。また夏に素麺のようにして食べられている。

2015年8月9日日曜日

唐辛子

○唐辛子(とうがらし)

 ナス科の一年草であるトウガラシの果実を乾燥させた製品。トウガラシは比較的どんな土壌にも適応し栽培が簡単なため、世界中で栽培され香辛料として多くの人に愛用されている。配合比率で利用目的も異なる。

 日本では東北地方、北陸地方、東海地方などの各地ではナンバンといい、岐阜県、島根県、京都府、九州地方ではコショウ、また福島県会津地方ではカラシなど呼び名が異なる。浅草寺や善光寺、清水寺など、寺院の門前には唐辛子屋があることが多い。これは昔、お参りに行くのにお金をかけてしまった人でも買えるほど、唐辛子が安価だったため、という言い伝えがある。

 長野県の代表的な観光地である善光寺は、「牛に引かれて善光寺参り」という言葉もあるように、週末ともなると全国から参拝者が訪れる。なかでも門前にある八幡礒五郎は七味唐辛子が有名で、参拝者たちにも人気の店である。八幡礒五郎の歴史は古く、長野市の郊外にある鬼無里村の商人がアサと和紙を江戸に運び、かさばらない七味唐辛子を持ち帰り、初代勘右衛門がその七味唐辛子を善光寺の境内で売り始めたのがはじまりといわれている。

 そののち、1707年(宝永4)に火災で焼失した善光寺の再建が行われ、冬の寒い中作業をする大工や作業員のべ20万人に七味唐辛子を入れた味噌汁を振舞ったところ、作業がはかどり七味唐辛子が耐寒食料としてよく売れるようになったという逸話が残っている。

 江戸の七味唐辛子は乾燥陳皮(ミカンの皮)、胡麻、山椒、麻の実、あぶり唐辛子、芥子の実、生唐辛子の7種類で作られていたが、八幡礒五郎は生唐辛子と芥子の実は使わず、生姜と青紫蘇を使い独特の味を作り出した。いまでは、信州蕎麦などの薬味に欠かせない香辛料となっている。

 また、唐辛子は、ペルーやメキシコの複数の遺跡から出土しており、紀元前から栽培されていたのではないかとみられている。そののち、コロンブスによってヨーロッパに持ち帰られ、17世紀にポルトガル人によってアジア、中国に伝えられたという。日本には同じ頃ポルトガル人によってタバコとともに伝えられたという説と、豊臣秀吉が朝鮮半島に出兵したときに持ち帰ったという説などがある。

【生 態】

 トウガラシはアメリカの熱帯地域が原産地といわれている。辛味種と甘味種に大別され、辛味種を欧米ではチリペッパーといい、日本では甘味種の一種をピーマンと呼んでいる。春先に種をまくか苗を植えて、晩秋に収穫する。

●鷹の爪

 日本の乾物店にある辛味唐辛子の代表。形状が鷹の爪に見えることから名づけられた。果実が3~4cmのものが多い。乾燥させて保存し、漬物や七味唐辛子などに幅広く利用されている。主な産地は栃木県である。

●八つ房唐辛子

 ひとつの房に10個もの実がまとまって、上を向いている。鷹の爪より太く長いが辛味はやや劣る。枝のまま乾燥した観賞用としても楽しめる。

●島唐辛子(キダチ唐辛子)

 沖縄補地方で栽培されている。泡盛などにつけて調味料として販売されている。

●伏見唐辛子

 京都の伏見地区の在来種で果肉は10~12cmくらい。細長いかたちをしている。丸ごと焼いたり、てんぷら、煮物などに利用される。

●万願寺唐辛子

 伏見唐辛子と大型ピーマンのカルフォルニア・ワンダーとの交配で、果実の大きさは15cm以上にもなる肉厚で美味しい甘味種。京都の舞鶴万願寺地区固有品種である。

●日光唐辛子

 果実は10~15cmと細長い。輪切りにして生食のほか、中華料理や加工用など、さまざまな場面で利用される便利な中辛唐辛子。

【加工品】

●七味唐辛子

 香辛料として各種珍味、薬味を配合したもので配合は各業者によって違いはあるが唐辛子粉、黒胡麻、山椒、芥子の実、麻の実、陳皮、青海苔など7種類を混合したものである。浅草の「やげん堀」、長野市の「八幡屋礒五郎」、京都府清水の「七味家本舗」などが有名。

●一味唐辛子

 七味唐辛子より辛い。さまざまな種類の唐辛子を配合した薬味で、用途は七味唐辛子にているが、キムチ漬けなどにも利用される。

【栄養と機能性成分】

 辛味成分であるカプサイシンがエネルギー代謝を活発にして、食欲増進・発汗作用をもたらすといわれている。発汗によって体温が下がるため、特に暖かい地方で好まれている。炭水化物の消化を助ける働きもあるという。

【保存と利用方法】

 長時間保存すると香気が抜け、害虫が発生するので、湿気を避けて瓶などに入れて保存する。和食のきんぴら、漬物、野菜炒めのほか、中華料理、韓国料理と利用範囲は広い。小さく切るほど辛味が増す。ぬるま湯に浸して戻すと刻みやすい。種の周りの内壁部分に強い辛味があるため、辛味を抑えたいときは種を抜いてから調理するとよい。

2015年8月5日水曜日

タピオカ澱粉

○タピオカ澱粉(たぴおかでんぷん)

 トウダイグサ科の低木であるキャッサバの根からとった澱粉のこと。キャッサバは、古くから中南米で栽培されてきた。特にインドネシアで多く栽培されている。葛粉や粉の代替品のほか、うどんやケーキ、パンに練りこむなどして利用されている。また、湿らせて小さい球形にして表面を半糊化させたタピオカパールは世界各国で菓子材料として人気がある。

2015年8月4日火曜日

竹の皮

○竹の皮(たけのかわ)

 イネ科タケ亜科の多年生常緑木質植物であるタケの皮を乾燥させた製品。竹の皮は保水力、殺菌性にすぐれ、包んだものが腐りにくく、乾燥、変色しにくいため中華粽やおにぎりの保存うってつけである。

【名 称】

 地下茎から出た若い芽はタケノコとして食用するが、タケの皮は食べ物の包装や傘、ぞうりの表などに利用されている。タケの皮は、葉鞘の発達したもので、成長すると自然に落ちる。竹の中でも大型のモウチクソウの皮が用いられることが多い。そのほか、マダケの皮は平滑で黒い斑紋があり、毛がなく滑らかなものが多いため、包装用に利用されることが多い。

【保存と利用方法】

 竹の皮にはフェノール物質の抗菌作用があるが、湿気があるとカビが生えてしまう。湿度に注意すれば数年使うことができる。また、電子レンジでそのまま加熱、解凍することもできる。乾燥しすぎても、10分くらい水に浸し、水分を適度に与えれば軟らかくなる。