2015年9月3日木曜日

干し椎茸

○干し椎茸(ほししいたけ)

 マツタメ目キシメジ科に分類されるシイタケを干した製品(ヒラタケ科、ホウライタケ科、ツキヨタケ科、ハラタケ目キシメジ科という説もある)。干し椎茸は乾燥により生のシイタケよりも旨味が増すため、味や香りがよい。また、天日干しすることによって、エルゴステロールという物質がビタミンD2に変化し、栄養価も上がる。

 現在、中国での生産が盛んである。中国産の干し椎茸は、日本産にくらべ乾燥しており比重が軽く、香りも弱い。近年、不正に日本から持ち出された日本国内の優良品種の種駒(椎茸菌を培養した木片)で栽培されており、安価な輸入品が増えている。これに対し日本が2001年にセーフガードを発動するなど貿易摩擦が起きたこともある。

 生のシイタケは世界各地で親しまれており、英語、フランスなどでもそのまま日本語のshii-takeと呼ばれる。フランスでは生のシイタケが一般流通しており、比較的簡単に手に入る。近年ではオランダでも栽培するようになり、やはりshii-takeの名で販売されている。

【名 称】

 名前の由来は「椎の木に多く発生する茸」だといわれている。香りがよい菌ということでかつては「香茸」とも呼ばれていた。

【生 態】

 野生では、おもにナラ、カシ、シイ類などのブナ類の枯れ木に、春と秋に発生し、高地では夏に発生することも多い。短い円柱形の柄の先に傘を開く。枯れ木の側面に出ることも多く、その場合には柄が大きく曲がる。傘の表面は茶褐色で綿毛状の鱗片があり表面は白色で、細かい襞がある。

 子実体の発生時期は初夏と秋で、適温は10~25℃と幅があり菌株によって異なる。発生時期によって名称が異なり、冬の寒い時期に発生したものを寒子、春に発生したものを春子、秋に発生したものを秋子、梅雨に発生したものを梅雨子、藤の花の頃に発生したものを藤子と呼ぶ。

 シイタケは日本、中国、韓国などで食用に栽培されるほか、東南アジアの高山帯やニュージーランドにも分布する。日本では、大分県、徳島県、鳥取県、熊本県、宮崎県、群馬県、栃木、静岡県、長崎県、岩手県、秋田県などで栽培が盛んである。その中でも、干し椎茸の生産がとりわけ多いのは大分県と静岡県。

 中国では石膏賞、福建省・湖南省などを中心として全土で生産されている。シイタケは日本中どこでも生育可能だが、基本的な条件は次の通り。

①直射日光が当たらない場所。
②冷えすぎず、温まる場所(冬期や早春には木漏れ日が当たる場所を選ぶ)
③水はけがよい場所。
④通風のよい場所。

【栽培方法】

 次の2種類の栽培方法がある。

●原木栽培

 ナラ、クヌギなどの広葉樹を伐採して枯らしたものを原木として使用する。原木に穴を開けて種駒を打ち込み、適度に日の当たるスギ林や竹林に設置する。収穫時期は、種駒を打ち込んで2年半経ってから、原木が朽ち果てるまでの5~6年間である。毎年収穫できるが、3年目くらいがおいしいとされる。

●菌床栽培

 のこ屑にふすまや米糠などを混ぜてかためてから椎茸菌を植え、屋内で培養する方法。1990年(平成2)頃に開発された。5~6ヶ月で採取が可能で、温度、湿度の管理を人工的に調節することができるため、年間を通じて栽培することができる。

 菌床栽培が広まっているのは、原木の伐採や運搬に労力がかかるうえ、栽培期間の長い原木栽培に比べて手軽に栽培できるためである。しかし、菌床栽培で育った椎茸は原木栽培したものに比べて香りが乏しい。

【主な種類】

 シイタケは発生後、生長とともに大きく厚くなり、傘が開いていく。傘の開き具合によって呼び名が異なる。次にあげる冬菇、天白冬菇、香信、香冬、ばれ葉は傘の開き具合や育った環境が異なるのみで、厚木や菌、産地などは変わらない。

●冬菇

 七分開きにならないうちに採取したもの。気温が低くなる晩秋から早春にかけて育った秋子や寒子に多くみられる。肉厚椎茸。気温が低く乾燥した天候が続けば冬菇のまま大きくなる。

●天白冬菇

 冬菇の中でも、肉厚な傘の表面に白い亀裂が入っているもの。気温5~8℃、湿度35%以下の環境で、30日かけてゆっくりと育った冬菇。花が開いたように見えるため人気があり最高級品とされ花冬菇とも呼ばれる。

●香信

 傘が七分以上開いており肉厚なもの。2~5月に成長する春子に多い。気温が急に上がって雨が降ると、いっせいに傘が開いて香信になる。

●香菇

 七分開きになってから採取したもの。冬菇と香信の中間に位置する。肉厚で大ぶり。

●ばれ葉

 採取の遅れにより、傘が開きすぎて肉薄になったもの。気温が急に上がって雨が降ると、いっせいに傘が開いて香信になる。低価格で水戻しも早く、日常の料理に便利。

【製造方法】

 生シイタケは傷みやすいため、採取したらすぐに乾燥させる必要がある。乾燥は機械で人工的に行われている。少しでも水分があるとカビや虫が発生してしまうため、天日でゆっくり乾燥させているうちに傷んでしまう。そのため、江戸時代も天日ではなく炭火で乾燥させていたといわれている。

 現在は40~55℃で15~20時間かけて熱風乾燥したのち、遠赤外線乾燥機を使って内部温度を80℃にして仕上げる。「天日干し」の名で販売されている商品は、機械乾燥ののち、天日に1~3時間干した製品である。

【栄養と機能性成分】

 微生物の子実体であるキノコは、動植物にはない成分を含んでいることが多く、なかでもシイタケは特に多い。特に注目すべきなのは、エルゴステロールという成分である。

 エルゴステロールは、太陽光(紫外線)を受けるとシイタケの中でビタミンDに変わり、それを摂取するとカルシウムの腸からの吸収を促すといわれている。冬菇10個で、1日分のビタミンDの目安量がとれる。機械乾燥品は紫外線をあまり浴びていないのでビタミンDは期待できない。

 天日干ししたシイタケも空気にさらされることによって1ヵ月半ほど経つとビタミンDが半減してしまうという。しかし、利用する直前に傘の裏を上に向けて盆ざるなどに並べ天日干しすると、エルゴステロールがビタミンDに変化し、保存中に失われたビタミンDを回復することができる。生のシイタケを家庭で天日干しにしても同じ効果が得られるが、完全に乾燥させて干しシイタケを作るのは難しい。真夏の強い日差しに、乾燥した天候などの条件が揃ったところで数日干せばできるかもしれないが、乾燥する前に傷んでしまう可能性が高い。

 また、干し椎茸には100g中、41gもの食物繊維が含まれているので1枚(3g)5.5Kcalと低エネルギーである。食物繊維の大半は不溶性のセルロースやリグニンなどで、腸内の善玉細菌のエサとなってビタミンB2の生成を促し、免疫力を高める。

 そのほか、エリタデニンというシイタケ特有の成分があり、これは血中コレステロールを低下させる作用があるといわれている。加熱したり乾燥しても失われないが、干しシイタケを戻すとき、溶け出してしまうので、戻し汁も使うと摂取することができる。また、多糖類のひとつであるレンチナンも含んでいる。レンチナンは、がんなどの悪性腫瘍の発育を阻止する作用があるとされ、胃がんの治療薬に使われている。

【保存と利用方法】

 干し椎茸の賞味期限は約1年である。しかし、適切な環境で保存すれば2年ほどもつ。開封したら、湿気と直射日光を避け、密封できる容器に入れて冷暗所か冷蔵庫で保存すること。出し入れするときに湿気が入ってしまう可能性があるので、小さいパックにするとなおよい。ふくめ煮には冬菇だが薄切りにするなら香信でも十分。みじん切りにするならスライス製品でもよい。用途によって使い分ける。

 干し椎茸は水に浸けて戻してから調理する。芯までふっくら戻るまでにはひと晩かかる。戻している間に、栄養成分の上でも大きな変化がおきている。まず、シイタケに含まれている酵素が働き、香り成分であるレンチオニンと旨味成分のグアニル酸が生成される。そしてグルタミン酸、アラニンなど、旨味を増すアミノ酸がつくられる。急ぐ場合、電子レンジを使うとよいが、急激に加熱すると酵素の働きが失われてしまうため、香りや旨味が少なくなってしまう。

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